追憶。
 
正直言ってーーーー 
シンビにこのような点花が咲くとは予想できなかった。
深遠の美がシンビにあるといいながら、この歌は無理だろうと思っていた。
私は、シンビの情念を軽く見ていたことになる。
と、いうことは、−−−−女の情念の深さを知らなかったことになる。
30余年、シンビを看てきたが、あわべを看てきたことになる。

女がーーーー決断すれば、
男をきれいさっぱり捨てて、新たな恋をするのを多く見て、
和泉式部もそういう女と思ってきたが、
恋の痛手を癒すには、新たな恋を燃やすよりなかった・・・のか。

忘却はーーーー消すのではなく砕くもののようである。
「削除」・・・・出来れば、どんなに・・・・
小さく・・・・砕けた恋の断片を、
時々、寄せ集めて繋ぐことをーーーー追憶というのかもしれない。
身体に痕跡として点々と残るもののようであるーーーー。
私は、植物に追憶はないと思ってきた。
ずーと前の形質を顕すのは「先祖返り」と思ってきた。
そんな見方は科学的であるが、この花を見れば、花のこころは違うと思えてくる。

この花が開いたとき、我が目を疑った。
別れた女から、この歌を投げられたようなーーーー
晴天の霹靂のようなものであった。
何年も、砕けて恋のかけらをを抱いてーーー生きていたのである。
私は、女に贖罪するように、この花を毎日掬うことになった


                                    宇井 清太
 






  


  あなたを恋しいと想う心は数千にも砕けたけれど、その中の一つさえ
  もなくならないものです。

 Fragment

 

   君恋ふる心は千々にくだくれど
      ひとつも失せぬ物にぞありける
            和泉式部  和泉式部集

 MOG95−116
 Happy promenade
 花径12cm
 1月咲き 大型
  Fragment

君恋ふる心は千々にくだくれど
     ひとつも失せぬ物にぞありける

              和泉式部


yuyu9