心焼け。

「もう・・・電話はしないで」。
海焼けのような−−−不毛の愛に訣別するのは女の意地。
息を重ねるごとに、索漠がひろがってゆく−−−愛。
惨めなこころに、秋の「つるべ落とし」のような暗がりがひろがる。

必ず、夕暮れになるとかかってきた電話。
電話のあった日の夕映えは、ことさらに美しく眺めることが出来たのに、
今は、その追憶さえ、夕映えの空さえ−−−恨めしくおもう。
あの時、こころ決めたのに・・・・
来ることのないコールを待っている・・・・こころ待ちしていることに気づく。
あのとき・・・・私の拒絶の言葉を−−−−
あのひとはーーーそれを、私が言うのを待っていたのだ、そうなのだ・・・
夕映えの麗しさの中に、枯れ折れた荻のカサカサした音が身を切る−−−。

   さらでだにあやしきほどの夕暮れに
         荻吹く風の音ぞ聞こゆる       斎宮女御    後拾遺集

斎宮女御の琴の音に誘われ、夫の村上天皇が「久しぶり」に訪れたとき、
夫に目もくれないで、琴を弾きながら詠んだという。

荻吹く風と、電話のコールに吹く風を−−−−女は一人聞く。

この48花撰を企画したとき、三夕の歌を表すのも困難を極めるが、
最も表現の難しい色は、この歌の秋の「夕暮れ色」と予想した。
麗しい夕暮れの花なら咲くかもしれないが、
恨みのこもったこころ焼ける美しい花は、咲かないかもしれない。
−−−−交配親を選ぶのに数年を費やしてしまった。

この花は、この歌の何年か後の−−−夕暮れの色と想う。

                                 宇井 清太

新古今集

訪れなくなった人を恨み悩んで、今はもう待つまいと思うわが身であるけれども、待ち慣れた夕暮れになると、ついそちらの空がながめやられる。

寂蓮法師  (?−1202)

うらみ侘びまたじいまはの身なれども
       思ひなれにし夕暮れの空

                     

John Wooden
 MOG95−203
 John Wooden
 花径 15cm
 2月咲き  大型種
寂蓮法師

うらみ侘びまたじいまはの身なれども
            
思ひなれにし夕暮れの空

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